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東京地方裁判所 平成4年(特わ)2467号 判決

裁判所書記官

矢﨑和彦

本店所在地

東京都青梅市千ケ瀬町二丁目一八〇番二

大東産業株式会社

右代表者代表取締役

伊藤茂

本籍

東京都青梅市千ケ瀬町二丁目一六六番地

住居

右同

会社役員

伊藤茂

昭和一七年六月一一日生

本籍

東京都足立区舎人五丁目二四番地の五七

住居

東京都青梅市新町一一二二番地の二

会社員

伊倉邦夫

昭和一九年一一月一四日生

右被告会社大東産業株式会社、被告人伊藤茂、同伊倉邦夫に対する各法人税法違反、被告人伊倉邦夫に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官今村隆、渡邉清、弁護人竹原茂雄(被告会社大東産業株式会社、被告人伊藤茂関係)、同武田聿弘(被告人伊倉邦夫関係)各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社大東産業株式会社を罰金七〇〇〇万円に、被告人伊藤茂を懲役二年に、被告人伊倉邦夫を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円にそれぞれ処する。

被告人伊倉邦夫に対し、その罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

被告人伊藤茂に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用は、被告人伊藤茂、被告会社大東産業株式会社の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

第一  被告会社大東産業株式会社(以下、被告会社という)は東京都青梅市千ケ瀬町二丁目一八〇番二に本店を置き、不動産の売買及び仲介等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、被告人伊藤茂は、被告会社の代表取締役(昭和六三年六月二一日以前は、被告会社の取締役であるとともに実質経営者)として被告会社の業務全般を統括していた者、被告人伊倉邦夫は、被告会社に勤務し、被告会社の不動産売買の業務に従事していた者であるが、被告人伊藤及び同伊倉は、共謀のうえ、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産の売買を他社名義で行うなどの方法により売上の一部を除外し、簿外資金を蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、昭和六二年八月一日から同六三年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五億〇八六〇万六八六七円(別紙1の損益計算書記載のとおり)、課税土地譲渡利益金額が五億一一〇七万七〇〇〇円であったのにかかわらず、確定申告書提出期限の延長処分による同申告書提出期限内である同六三年一〇月三一日、東京都青梅市東青梅四丁目一三番四号所轄青梅税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七四六七万三二二二円、課税土地譲渡利益金額が八七〇二万三〇〇〇円であり、これに対する法人税額が四八五二万九六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三億二一三九万九七〇〇円と右申告税額との差額二億七二八七万〇一〇〇円(別紙2の脱税額計算書のとおり)を免れ

第二  被告人伊倉邦夫は、東京都青梅市新町一一二二番地の二(昭和六三年四月二三日以前は、同都福生市八八七番地七、同六二年七月三一日以前は、同都西多摩郡羽村町五ノ神四丁目一二番一四号)に居住し、被告会社に勤務するかたわら、自己が取り扱った不動産売買に関し、被告会社から取引の分配金を得ていた者であるが、自己の所得税を免れようと企て、被告会社の不動産売買を他社名義で行うことによって被告会社からの自己の分配金収入の事実を隠蔽し、更に右分配金の一部を被告会社の簿外にする形にして貸し付け、或いは右分配金の一部によって自己が取得した建物を妻名義で所有権保存登記手続きをするなどの方法により所得を秘匿したうえ

一  昭和六二年分の実際総所得金額が二億七五二三万七四〇〇円(別紙3の修正損益計算書のとおり)であったにもかかわらず、右所得税の納期限である昭和六三年三月一五日までに、所轄税務署である前記青梅税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同六二年分の所得税一億五六四二万九八〇〇円(別紙4の脱税額計算書のとおり)を免れ

二  昭和六三年分の実際総所得金額が七九四一万七二〇四円(別紙5の修正損益計算書のとおり)であったにもかかわらず、右所得税の納期限である平成元年三月一五日までに、所轄税務署である前記青梅税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同六三年分の所得税三七二〇万二六〇〇円(別紙6の脱税額計算書のとおり)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人伊藤茂、同伊倉邦夫の当公判廷における各供述

一  被告人伊藤茂の検察官に対する供述調書(五通。検乙1ないし5)

一  被告人伊倉邦夫の検察官に対する供述調書(四通。検乙10ないし13)

一  東宮宏之、赤井康徳の検察官に対する各供述調書

一  青梅税務署長作成の証拠品提出書

判示第一の事実につき

一  被告人伊藤茂の検察官に対する供述調書(検乙6)

一  大蔵事務官作成の土地売上調査書

一  大蔵事務官作成の土地素材費調査書

一  大蔵事務官作成の造成費調査書

一  大蔵事務官作成の販売手数料調査書

一  大蔵事務官作成の支払分配金調査書

一  大蔵事務官作成の手数料調査書

一  大蔵事務官作成の雑費調査書

一  大蔵事務官作成の受取利息調査書

一  大蔵事務官作成の雑収入調査書

一  大蔵事務官作成の支払利息調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(四通。甲第7、12、13、34号証)

一  登記官作成の登記簿謄本

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成五年押第二二五号の1)

判示第二の各事実につき

一  被告人伊倉邦夫の検察官に対する供述調書(検甲14)

一  大蔵事務官作成の受取分配金調査書

一  大蔵事務官作成の医療費控除調査書

一  大蔵事務官作成の社会保険料控除調査書

一  大蔵事務官作成の生命保険料控除調査書

一  大蔵事務官作成の配偶者・扶養・基礎控除調査書

一  大蔵事務官作成の査察官報告書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲第20号証)

判示第二の一の事実につき

一  大蔵事務官作成の給与収入調査書

一  大蔵事務官作成の給与所得控除額調査書

一  大蔵事務官作成の源泉徴収税額調査書

判示第二の二の事実につき

一  大蔵事務官作成の支払利息調査書

一  大蔵事務官作成の損害保険料控除調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(三通。甲第15、17、27号証)

(確定裁判)

被告人伊倉邦夫は、平成元年四月一〇日浦和地方裁判所で詐欺罪により懲役二年六月保護観察付執行猶予五年に処せられ、右裁判は平成元年四月二五日確定したものであって、この事実は検察事務官作成の前科調書によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人伊藤茂の判示第一の所為は、刑法六〇条、法人税法一五九条一項に該当するところ、所定刑中、懲役刑を選択し、その所定の刑期の範囲内で被告人伊藤茂を懲役二年に処し、刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

被告人伊倉邦夫の判示第一の所為は、刑法六〇条、法人税法一五九条一項に、判示第二の一、二の各所為は、いずれも所得税法二三八条一項にそれぞれ該当するところ、各所定刑中判示第一の罪については懲役刑を選択し、判示第二の一、二の各罪については懲役刑と罰金刑とを併科するとともにいずれも情状により同条二項を適用し、以上の各罪と前記確定裁判のあった罪とは刑法四五条後段により併合罪の関係にあるから、同法五〇条によりまだ裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし、なお、右の各罪もまた同法四五条前段により併合罪の関係にあるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第二の一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第二の一、二の各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人伊倉邦夫を懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円に処することとし、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により、金二〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとする。

被告人伊藤茂、同伊倉邦夫の判示第一の所為は、被告会社の業務に関してなされたものであるから被告会社につき法人税法一六四条、一五九条一項に該当するところ、情状により同条二項を適用し、その所定の罰金刑の範囲内で、被告会社を罰金七〇〇〇万円に処することとする。

なお、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人伊藤茂及び被告会社に連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件法人税法違反は、被告会社が売買した物件のうち四物件について、中間省略登記を悪用して被告会社が売買した事実を隠蔽したものであるが、うち三物件については、さらに実質倒産していた二社が被告会社に代わって取引したように偽装を重ねるなどして、その売買益を全額秘匿したものである。ほ脱した税額及びほ脱率をみると、ほ脱した税額は、二億七二八七万円余に上るという高額なものであり、ほ脱率は、八四パーセントを超える高率に達しているのである。所得秘匿の工作をみると、中間省略登記を悪用したにとどまらず、倒産会社が売買の主体であるように装いを加え、さらに事後の税務調査に備えて右倒産会社の代表者を所在不明にし、或いは戸籍の売買という形で得た氏名を代表者名として使用し、爾後の税務調査を調査不能にさせようと画策しているのであって、態様悪質といえる。

以上によれば、被告会社の受けるべき責任は重かるべきである。

他方、被告会社には、ほ脱本税は勿論、加算税ほか関連する地方税全てを納付ずみであるという斟酌すべき事由がある。

被告人伊藤は、昭和六一年二月ころ、不動産購入に際して仲介業者の従業員であった被告人伊倉と知り合い、同人に教示されたダミーを用いる手口によって裏金作りができたことから、更に裏金を作り、蓄財しようと思い立ち、被告人伊倉に持ち掛け、被告会社を設立し、作出した裏金を被告人伊倉と折半する約束をして、被告人伊倉を売買交渉などの業務の中心に据えさせるとともに売買隠蔽工作をなさしめ、本件法人税法違反を犯したもので、被告会社の設立自体が出資者たる被告人伊藤の脱税の目的からなされたことを考えれば、被告人伊藤の犯情は悪質で受けるべき非難は大きいというべきである。

他方、被告人伊藤は、反省の情を披瀝し、今後は誠実に納税申告を行うことを誓約していること、前記のとおり、被告会社については、ほ脱本税は勿論のこと、加算税など全て納付ずみであること、従前、格別の前科前歴もないことなど酌むべき事情がある。

被告人伊倉は、前記法人税法違反のほか、被告会社が入手した裏金を被告人伊藤との約束に従い、受領した折半分等の分配金などを二年度にわたって申告しなかったもので、免れた所得税の総額は一億九三六三万円余に及び、その通算のほ脱率は源泉徴収分を除けば一〇〇パーセントというものである。被告人伊倉の法人税法違反の点については被告人伊藤が出資し、その出資に基づいて被告人伊倉が表裏の活動の中心となる形で、すなわち、被告人伊藤と被告人伊倉とは、いわば車の両輪として被告会社の設立目的である脱税の目的を達したもので、被告人伊倉の刑責は、被告人伊藤に劣らないものといえる。所得税法違反の点については、右法人税法違反の秘匿行為と重複する形態で犯したもので、これまた計画的な犯行と言いうるもので、しかも全く申告をしないという無申告であって、犯情悪質である。そして、被告人伊倉は、今日に至るまでほ脱した本税は勿論、加算税などを全く納付していないのである。加えて、本件犯行時には、詐欺罪により刑事裁判を受けている身であったのであり、本件犯行が右事件の被害者に被害弁償をする目的でなされたにせよ、斟酌し得る事情とはならず、新たな違法行為によって、これを填補した点において、その無責任な態度が顕著に認められるほか、窃盗罪により施設内において矯正処遇を施されているにもかかわらず、なお、詐欺事件のほか本件に及んでいることからすれば、その遵法精神の薄弱さも認められるのである。

以上によれば、被告人伊倉の受けるべき処遇は厳格であるべきである。

他方、被告人伊倉は、期限後申告及びその後の修正申告により、そのほ税金額を納付する意思を示していること、二度と違法行為に及ばない旨誓約していること、本件は前記詐欺罪の余罪の関係にあることなど酌むべき事情もある。

右の各情状のほか、その他諸般の事由を勘案し、それぞれその刑の選択及び量定をした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告人伊藤茂に対し懲役二年、伊倉邦夫に対し懲役二年及び罰金六〇〇〇万円、被告会社に対し罰金八〇〇〇万円)

(裁判官 伊藤正高)

別紙1 修正損益計算書

〈省略〉

〈省略〉

別紙2 脱税額計算書

〈省略〉

別紙3 修正損益計算書

〈省略〉

別紙4 脱税額計算書

〈省略〉

別紙5 修正損益計算書

〈省略〉

別紙6 脱税額計算書

〈省略〉

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